編集プロダクションに勤めている俺へ名指しの手紙が来た。執筆指導をしてほしいとのこと。難しい旨を返信する と『あてどころに尋ねあたりません』調べてみると刑務所で・・・
去年の暮れ、会社に1通の手紙がきた。 編集プロダクションに勤めている俺への、名指しの手紙だった。中を読むと自分のエッセイを読んで手直しして欲しい事、そして執筆指導をして欲しい事の2点が主な内容だった。 奥付(本の最後の出版社や発行者、編集者などの名前が載ってる部分)で名前でも見たんだろうかと思いながらも、初めての事態に少々不信感を抱きながら返信。 持ち込んでくれれば読むが、その後も個別に指導を続けるのは無理である事をしたためた。 その翌日、宅配便の担当者から宛先に該当する人がいないとの電話を受けた。その言い回しにじゃっかん違和感を覚え、詳しく聞いてみると、その宛先は北関東にある刑務所だった。 同封されていた返信用封筒にしるされていた住所をそのまま書いたのだが、意外な展開に戸惑い、差出人の名前で検索すると傷害事件で逮捕された男の名前だった。 収容された場所がそこであることは、ネットで調べた限り確かなようだったが、すでに出所している人物だったため、誰かの嫌がらせの線をまず疑った。 改めて封筒を見てみると、2つの事に気がついた。 ・封筒に書かれていた差出人の住所と、返信用封筒に書かれていたそれが違う場所である事。 ・封筒と便箋に使われていたペンが別物である事(筆跡は見た限りでは同一の様)。 2つ目の意図・意味は上手く推測できず、とりあえず誰かにからかわれたような気になり、よせばいいのに封筒の方の住所へ改めて返信をする事にした。 正直怒りの気持ちもあったが、恐怖もあったため、そういう気持ちは表さず、形式通りのビジネスレター的な書き方にした。 その4,5日後返信が届いた。封筒の裏を見ると前回と同じ住所。あの受刑者と同じ名前で届いた事に少々おびえつつ封を開き、次の文を見て血の気が引いた。 「〇〇〇は、もう3年も家に戻っておらず捜索願いを出しているのです。もし居場所をご存知なら、お願いですから教えていただけませんでしょうか。」 ネットで見た限りでは、言い渡された刑期と確定判決の出た時期から考えて、出所は去年の夏辺りのはずだった。特赦・恩赦・仮釈があったにしても3年前は早すぎる。 3年間服役していて家にいないのであれば、捜索願いを出すわけもないし、もし仮に親が知らないうちに息子が服役していたにしても、その捜索願いを受けた警察側で彼の現状は分かるはずだと思った。 同姓同名の別人なのか?それとも他の理由があるのか? ここで終わらせたい気持ちと、真相を知りたい気持ちに揺れて、俺は、手紙に書かれていた電話番号にかけてみる事にした。 固定電話で市外局番を見る限り、送り元の住所と一致していたし、恐らく母親だと思われる書き手の文は、嘘には思えなかった。聞きたい事は大きく3つ。 ・息子さんは過去に傷害事件(実際は併合罪(へいごうざい)であったが詳細ははぶく)で服役していたのか[…]
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