出張に行ったときの話。 大もめにもめた打ち合わせが終わったのが午後9時くらい。遠隔地の出張だったのでさすがに今から帰るのは無理だろうという判断のもと、当地で晩飯食った後、駅周辺で泊まれる所を探した。 上司曰く、ここらのホテルはどこもすいてるから夜遅くでも大丈夫とのことなので、軽く2人で酒飲んで11時半くらいになってたと思う。とあるホテルを訪ね、フロントで空き部屋確認したら、「ツインなら1部屋ご用意できますが」って言われた。 「上司さん(仮名)、ツインでいいですよね?」って聞いたら上司はちょっと嫌そうな顔をしてたが疲れてたのであっさり無視、さっさとチェックインしてエレベーターに向かった。部屋に入るとすごい眠気が襲ってきたので、TVもつけず寝支度を始めた。 さて寝ようかなと思ってベッドに潜り込むと上司が俺に向かって話しかけてきた。 「なぁ部下(仮名)、ナルコレプシーって知ってるか?」 「新車ですか?」 「いや、睡眠障害の病気なんだけどさ、俺って寝付くときに結構な頻度で金縛りにあって怖い夢を見るんだよ。でさ、呼吸が荒くなったり叫んだりするかもしれないけど、そんときは怖がらずに俺を起こしてくれないか」 これから寝ようってときに何キモいこと言ってんでしょうねこの上司。疲れてたので適当に返事してると、「俺が寝付くまで寝るなよ。うなされてたらちゃんと起こしてくれよな」と言って自分だけさっさと寝入ってしまった。 『いやぁすみません、昨日は長丁場の打ち合わせで俺も疲れてたもんで…』という言い訳だけ考えて俺は速攻で寝た。 真夜中になぜか目が覚めた。時計を見ると午前2時を廻っている。 一応上司の様子を伺ったが、特に呼吸も乱れてないし綺麗な仰向けの体勢でぐっすり眠っているようだったので、安心した俺は上司を起こさないよう真っ暗のまま(電気は全部消してた)トイレで用を足し、自分のベッドに戻った。 暗がりの中、念のためもう1度上司の顔を見てみたら、満面の笑みだった。それはもう気味が悪いくらいに大きく口を開けて、両目もカッと見開いてじっと天井を見据えている。狂人のような笑顔。 起きてるのかと思ったけど笑い声がしない。微動だにしない。 まばたき1つしない。あまりの思いがけなさにしばらく唖然としてたが、ふと我に返ると穏やかな顔でスヤスヤ眠ってて目もちゃんと閉じてる。 なんだ今の?ナルコきたコレ?数分くらいの間、上司の顔をじっと観察してたけど特におかしな様子もなく、完全に眠ってるっぽい。空調の音だけが部屋中をこだまする。 見間違いだったのだろうか。俺は釈然としないまま、また眠りに就こうとした。 それからどれくらいの時間が経ったかわからないけど、案の定怖くて眠れない。さっきの顔が頭に焼きついて離れないんだよね。 あんな顔の上司は今までに見たことがなかった、マジで。まるで別の誰かが笑いながら死んでる感じだった。 今も隣でさっきの顔になってたらどうしようとか、突然笑い声が聞こえてきたらどうしようとかそんなことばかり考えちゃって。なんか怖いときって自分で勝手に想像してどんどん深みにはまちゃうけど、もうまさにそれ。[…]
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